人類からの脱却

アメリカのジョージア州に、ジョージア・ガイドストーンって呼ばれている謎の大きな石碑があって、そこには多言語で人類に対する様々な戒律のようなものが刻まれている。

「地球の癌にならないように」とか、いろいろ書いてあるみたいだけれど、内容を見るに、これは今の人類に対して書かれたものではなくて、今の人類がほとんど絶滅に近い状態になった後に生き残った未来の人類に対して書かれたものだね。しかも石に多言語で刻むというやり方で伝えているということは、そういうことでしょ。石なら大規模な戦争や災害があっても遠い未来まで残るし、どの言語を使っている人類が生き残った場合でもある程度伝わるように、とりあえずいろんな言語で書いたんじゃないの?まあ、いろいろな解釈があるようだけれど、私はそうとしか考えられない。

で、その忠告の中に「人類の数を5億人に保つように」っていうのがあるの。

これ笑っちゃうよ。もちろん、地球環境に問題なく適応して生き延びていくためには、人類全体の数を5億人以下に留めておけばベストだと思うよ。それができるのなら、ぜひそうすべきだよ。少なくとも今の76億人というのは、健全に地球に暮らせる人数の上限を著しく超えている。今すぐにでも5億人程度になったほうが良いのは言うまでもない。

でも、人類が人類である以上、5億人程度に保つなんて、できるわけないじゃん。人類はそこまで賢明な判断ができるほど精神が進歩していない。だから、人類に対してそんなこと言ったって無駄だと思うの。(生き残った人たちが、その後の全人類を管理する仕組みを何か作って、強制的に絶対5億人以上にならないようにするというのなら、つまり世界全体が独裁政権によって管理される状態になるのなら、5億人を維持できる可能性もあるかもしれないけれど、そんなの上手くいくか分からないし、たとえそれができた所で、そんな世界に何の意味があるのか私にはさっぱり分からない。人類である以上は、何回繰り返したって、上手くいかないんじゃないかと思う。)しかも維持できたところで、永久に人類が人類の状態を同じように維持し続けることに何の意味があるのか。

私たちはきっと、そう遠くない内に何らかの原因でほとんどが滅亡するに近い状態になっておかしくないと思うのだけどね、だからと言って、未来の生き残った人類に対して「こうすると人類は続かないから気をつけたほうがいいよ。こうしたほうがいいよ」なんて忠告をしたって、人類である限りはまた同じ失敗をすると思うよ。

だって人類は今まで何回、戦争で悲惨な思いをしていながら戦争を繰り返してるの?(「戦争で人口が減るから一定の人口を保つのに戦争が役に立ってるじゃん」と言われるかもしれないけど、わざわざそんな悲劇的な減り方しなくても、もっと賢い減り方あるでしょ。ほんとに賢ければそんな減り方は選ばないよ。)災害の忠告だって、例えば「大地震が来たとき津波がここまで来たから、ここより下には家を建てるな」って昔の人がせっかく書いてくれてたって、それを信じてきちんと守る人たちなんて、ごく一部だよ。だからそういう時、過去の人たちからの忠告を守って助かる人は、一部しかいない。結局、ほとんどの人は無視するんだよ。でもそれは仕方ないと思う。だって、いつの時代も、その時その時の自分たちの生活があって、それを営むためにはそんなの守ってられないというのもあるしね。

ほとんどの人類は、自分たちが経験した範囲内でしか考えないのだよ。人類ってそういうもんなんだと思うよ。

それに、人類は人類である以上、自分たちの幸せや自分たちの豊かさを優先させるから、全体を包括するような視点は持たないんだよ。全体を考える人も、ごく一部にはいるけれど、人類というか生物は基本的に「全体」より「自分」を中心に考えるんだよ。「地球の営み全体が上手く機能するかどうか」ということより、「自分たち人類の思い通りにする」ということを優先させるんだよ。地球環境全体から見たら到底相応しくない選択を自分たちがしていても、自分たちにとってそのとき都合良くなればそれで良いとしか思わないよ。

だから、人口が増え過ぎてもうこれ以上は持たないっていう今の状況になったって、それを本当に切迫した問題だと感じる人なんて、本当に一部しかいないでしょ?わたし、この状況を考えたら、人類の9割くらいの人が自ら進んで死んでてもおかしくないと思うの。でも、現状そうなってないわけでしょ?もしそういう選択をする人類がたくさんいるのなら、私も安心してとっとと死ぬよ。でも、そうなってないから、たとえ私一人が死んだって何の解決にもならないし、何も変わらない。だからせめてこういう事を書き残しているわけだけど。(ただし教育を受けられない環境にいて、地球の現状について知識がない人なら人口の心配をしていなくても当然だから仕方ないと思う。あと、今も原始的な生活を続けていて、べつに他の生物たちや地球の営みに迷惑をかけず、同じ人口を保ったまま生活している民族の人たちなら人口の問題を気にしないでいる資格があると思うけど。)

もし、どこか別の天体に住む知的生命体から「あなたたち地球の知的生命体は今、どのような段階にいるのか」と尋ねられたら私は、「全体よりも自分たちを優先させる段階だよ」と説明するよ。(まあ実際にはそんな状況はないけどね、この宇宙にいろいろなタイプの、いろいろな段階の知的生命体がいるとすれば、今の地球人は知的生命体のなかでも大変に稚拙な段階にいると思うから。)

人類は、人類である以上は、自分たちを増やすこと、自分たちの文明を繁栄させること、自分たちが幸せになること、自分たちの願望を叶えることを、何よりも優先させるのだよ。それが満たされるのなら、どんなに地球の営み全体を破壊するようなことをしても、しかも、そのせいで自分たちも苦しんでいずれ自滅するような事態に陥っても尚、自分たちだけを中心に考えるんだよ。今まさにその状態がずっと続いているのだから。

人類は脳が大きくて脳の機能が他の生物より発達しているだけで、生物としての態度は、本能のままに自分の目先の願望を叶えることだけを選択する他の生物たちと何も変わっていないんだよ。それなのに、自分たちの願望を叶えるに当たって、他の生物や地球全体の営みを根本的に狂わせるほどの力がある大変な技術を生み出せる知能は持っているのだから、とても危険な存在なんだよ。こんな危険な存在を、未だに地球上に置いてくれているなんて、地球はかなり寛容だと思う。これだけ地球全体の営みに協調していない状態で、人類がまだ地球に居させてもらえているのは、かなり奇跡的なことだと思う。もうそろそろ危ないけどね。近年で大分、地球から追い出されるまでのカウントダウンが進んだと思う。

人類は、他の生物より知能を持ってはいるけれど、その知能をどう使うべきなのかは全く分からないまま使っているのだと思う。それを分かるほどには発達していない。人類には優れた知能があって頭が良いけれど、その知能をどう使うべきなのかを的確に判断できるほどには頭が良くないの。私もその一人。どれだけ教育を施したって、脳を発達させたって、その適切な使い方を分かっていないのなら結局はいずれ破綻して、自滅することになる。人類が自滅するだけなら自業自得だからいいけれど、地球環境や他の生物たちまで壊滅的な状況に陥れ兼ねない。

だったら、人類に対して忠告をしたって意味ないと思うよ。そんなことよりも、「人類ではない、人類あるいは生物を超えるような存在」を人類が作って、その存在たちが未来の世界を構築して行けるように準備することのほうが大事だよ。

ここより未来の新しい世界をつくるのは人類には無理。私たちがほぼ絶滅に近い状態になった後に一部の人類が生き残っても、その人たちが人類である以上は、また同じ過ちを繰り返すだけだと思うよ。

だからとにかく私たちとは根本的に違う、新しい存在を創造することに最も重きを置くべきだと思う。そして、人類の先を担うその未来の存在たちに向けて、忠告なり助言なりを残せばいいと思うよ。人類が繁栄できる時代はもう終わったのだから。

人類は過去の生物。もう今の人類の状態から脱却することを考えた方が良いと思う。もうその時期に来ている。

だいたい、トップに立つ存在って入れ代わって行くものでしょ。それが自然の流れだよね。人類のなかの規模で考えたってそうでしょ?ある時代のトップアイドルが、ずーっとトップアイドルでいるなんてことないでしょ?一番上ってだいたい時代と共に入れ代わって行くものだから。それは地球規模でもそうだよ。恐竜だって、その当時のトップに立っていたわけだけれど続いてない。それが自然なことだよね。

生態ピラミッドの一番上に来る生物が、そのままずーっと上に立ち続けることなんてできないでしょ。できないし、いつまでも同じ者が一番上にいるべきではないよ。どんどん次の新しい存在に交代して行った方がいい。もう人類は、次の存在にその立場を譲るときなの。


2018年9月 間アイ



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