人口増加の危機

世界人口が多すぎることを私はずっと懸念しています。けれど今まで自分と同じくらい人口の増加を深刻に感じている人に会ったことがありません。外国には人口の問題を気にしている人も多いようなので日本だから少ないのかもしれませんが、いずれにしても人口を気にする人よりは気にしていない人のほうが多いことに違いはないかと思います。

人口の増加を気にする人が少ないのは、いま生き残っている人類が、「子供を残したい」と思っていた人たちの子孫だからなのでしょう。私たちは遺伝子を残そうと思った人たちの遺伝子を受け継いでいるわけです。

基本的に、子供を持ちたいと思っている人が子供を残しているわけですから、そうなればその子供もそういう遺伝子を受け継ぐことになるので、「自分の子供を残したい」と思う人の割合が大きくなるわけですよね。それでまたその人たちの子供が産まれてきて、するとその子供たちも同じく自分の子供を残したいと思うような性質を持っている可能性が高くなるのでしょうね。

ですから自然と、全体的に遺伝子を残すことに意欲的な人が残っていくわけですね。

それならば人類全体の人口増加云々よりも自分の子供を残したいという思いを優先させる人が沢山いたとしても、それは当然の結果なのでしょう。

だから、それを考えたら人類全体のなかで人口増加を気にする人の割合が少ないのは当たり前なのだと思います。ですがもう、このままでは増えすぎることになる危険性があるので、必然的に気にしなければならない段階に至るのではないでしょうか。

いま発展が目覚ましい再生医療とゲノム編集を、もし人類の幸福のためだけに用いたのなら、確実に人口が増えるのではないでしょうか。根本的に身体の一部を再生させることができるとか、産まれる前に予めゲノムを編集して健康に何も問題のない状態の人間を誕生させるとか、そういうことになれば、そしてもしそれが当たり前になれば、よほど人類自身が誕生させる人間の数をコントロールしない限り、人類全体の人口が増えてしまうでしょう。

そうなれば食料が大量に必要となり、他の動植物を大量に食べ生態系の秩序を壊すことになり兼ねませんし、人が多くなれば環境汚染も酷くなり地球環境全体に多大な悪影響が及ぶでしょう。

そうなれば当然、人類自身も困ることになります。人類が自分たちの技術で自分たちを破滅に追い込むだけなら勝手かもしれませんが、そうなると他の動植物や生態系全体、地球環境全体に影響が出てしまいます。だから自分たちだけの問題ではありません。

そして何よりも、もし自分たちの数が増えすぎて人類が持たなくなってしまったら、人類から先の歴史をそこで途絶えさせてしまうことになるのです。人類の次を担う、新しい生命体なりロボットなりに受け渡してから人類が破綻するなら、これまで脈々と続いてきた地球の生命の歴史が続きます。でも人類から先へ進むきっかけを人類が作る前に、自分たちの段階で破綻してしまったら次に繋げていけないのです。そうなったらその責任はとても重いのではないでしょうか。

だから、私たちが手に入れた技術を使うことによって人口が増える危険性があるならば、私たち自身が自分たちで自分たちを増えすぎないように自己管理しなくてはなりません。人類規模で自己管理しなくてはならないということです。このままでは先進国を中心として、いずれ科学技術と医療の進歩と共に病気を未然に防いだり根本的に治したりという技術がどんどん応用され、人は今まで以上に生き残れるようになるでしょう。そしてもし産まれる前に遺伝子を変えることになれば完全に健康的な人を大勢誕生させることになり、また、自然には子孫を残せない人であっても子供を望む人が皆、子孫を残せるような状況になったりするのでしょう。そうなれば格段に人口が増える可能性がありますよね。

これまでも、もっと小さな規模では同じようなことがありました。医療技術が発展し、開発途上国にも医療が行き渡り、それまでだったら助からなかった命がたくさん救えるようになった一方、それ自体は素晴らしいことだけれど、人が産む人数はそれまでと変わらなかったため、どんどん人口が増加してしまったのです。命を救えること自体は、素晴らしいことです。だからそれを実現する技術自体には何も罪はありません。

ただ、新しい技術を手に入れ状況が変わったのなら、自分たちの生活のスタイルや考え方なども、それに合わせて変えていかなければなりません。そしてその必要性を伝える教育が必要です。もし、新しい技術を得て状況が変わったのに自分たちのライフスタイルを変えないようだと、バランスが取れなくなります。

それと同じ事が、今まさに、世界規模で始まろうとしていると私は思っています。

もし再生医療や遺伝子工学の技術を使って、これまでだったら治らなかった病気を根本的に治したり、そもそも産まれる前に問題があれば遺伝子自体を変えて健康的な状態にしてから誕生させたり、子孫を残したい人はたとえ自然には不可能だった場合でも医療技術によって誰でも自分の子孫を誕生させることができるようになったりすれば、当然ながら人口は増えるわけですから、その分、誕生させる人類の数を考えなくてはなりません。

そのような新しい技術が登場し、人が生き延びられるようになったり、今までだったら誕生させることができなかったようなケースでも健康な人を誕生させることができるようになったりしたら、人類規模で人類の数が増えすぎないように、相当注意深く自分たちを見張っていなくてはなりません。

もし、今までだったら生き延びられなかったのが生き延びられるようになる技術や、今までだったら誕生できなかった人も誕生できる技術が登場してもなお、自分たちが子孫を残そうとする数が変わらなかったのなら、確実に人類は増え過ぎるでしょう。そうなれば人類は、自分たちが増え過ぎたことで自分たちを苦しめる結果になるでしょう。私はそんな未来を望みたくありません。

技術はどんどん進歩するべきだと思いますし、それ自体は素晴らしいことです。でも、私はそれを、私たち自身の幸せのためには使いたくありません。使っても人類全体や生態系全体、地球環境全体に影響が出ないものなら構いませんが、人口が増えてしまう原因になり兼ねないことについては慎重になる必要があると思っています。私は、自分が今の人間に常識的な範囲の寿命あたりでいずれ死ぬということさえできれば、例えばその前に何か身体に支障が出たとき、再生医療を使って寿命までは健康でいる、というのなら良いと思っています。それならば人類全体の人口には影響しませんから。

これは飽くまで私個人の意思であり、どういう技術を使うのかは個人の判断によって決めて良いことでしょう。でも、個人的な視点だけでなく、全体的なことも視野に入れて全体のバランスを考える視点を皆で持たなければ、人類は人類自身の技術によって滅亡する可能性が大いにあると私は思っています。

人類の生み出す技術自体は素晴らしいものだし、それは人類の後の時代を作っていく上で欠かせないものだと思うけれど、人類がその技術の使い方や使う方向性、「何の為に使うのか」というところを間違えたら、もう終わりなのだと私は思っています。少なくとも人類の個人個人の幸福や、人類の願望を叶えるためだけに使ったのなら、確実に人類のバランスは崩れ破綻し、人類から続いたはずの未来もそこで閉ざされることとなるのでしょう。私はそうなりたくありません。

これは今はまだ差し迫った問題に感じないかもしれませんが、もしも遺伝子自体を書き換えた上で人を誕生させることが当たり前になってしまったら、もうそうなってから考えるのでは遅いと思うのです。そうなってからでは事態が一気に加速することが考えられるからです。だからそうなる前に、最先端の医療を受けられる環境にいる人類皆で、人口を増加させないようにするという認識を持っておかなくてはならないと私は思っています。

「もし人類全体の人口が増えすぎて居住地が足りなくなったり環境汚染で地球に住めなくなったら、大きな宇宙ステーションや他の惑星に移住すれば良いから大丈夫」とか、「人類が増えすぎて動植物を食べ尽くして食料が足りなくなっても、科学技術を使って人工的な方法で食料を無限に生産できるから大丈夫」などと考える人もいるようだけれど、それは全く以て「人類のことしか考えていない」視点からの話だと思います。

そんなことになったら人類によって他の動植物や環境全体に甚大な被害が及ぶわけで、生態系の秩序を壊すことになるわけです。そうなれば恐らく人類は、自然の摂理の側から「こんな生物は全体にとって悪影響だから淘汰させなければならない」と判断され、生態系から追い出されることになるでしょう。人類が人類に限った視野だけで「自分たちは大丈夫」と思っていても、それを超えた自然全体の摂理から見て人類が邪魔だということになれば、そちらの力のほうが遥かに強いのではないでしょうか。

私は人類の未来を心配しているのではないのです。人類から先の、次の存在に繋げられなくなることを懸念しているのです。人類から受け継がれる未来全体が失われることを懸念しているのです。地球でここまで続いてきた生命の歴史が、人類から次の存在へ無事に受け渡されることを、私は切に願っています。そのことが最も重要だと思うのです。だからそのためには、人類の段階で増えすぎて全体が破綻してしまってはいけないのです。



人口増加の危険性については、昔、トーマス・マルサスが言ってたのを知ってる人もいると思う。そのころは、農業によって人口が増えるということだった。その「農業」に当たるものが今、「テクノロジー」に代わったのだと思う。

人口が減る要因となり得るのは、伝染病、戦争、飢饉、自然災害、隕石の衝突、子供を残さない人の増加など、いろいろあると思う。

でも伝染病は医療技術の発展や遺伝子の改変などでどんどん減るだろうし、戦争はどうなるか分からないけれど今のところ世界大戦のような戦争は長いこと起きていない。もし次に起きたら大変なことになるから絶対に起こしてはいけないと思うけど。

それからテクノロジーの発展で自動車が発明されてからは交通事故で亡くなる人も増えたと思うけど、今後、自動運転が普及するから交通事故も格段に減るのだろう。

不妊の人で子供を望む人も、医療の発展で自分の遺伝子を受け継ぐ子供を、望んだ人数だけ誕生させることができるようになるかもしれないし。しかも生まれる前から完全に健康状態に問題のないように遺伝子を変えて生まれさせるということになったら、生まれてから亡くなる子供も格段に減らせる。

途上国の食料危機の問題も、今は深刻だけれど、科学技術の発展でいくらでも食料を人工的に生産できるようになれば解決できる可能性はある。

自然災害は避けられないけれど、でもそれも防災の技術が進歩しているので、大きな自然災害が起きても被害を最小限に留めることができるだろうし。例えば地震自体は避けられないとしても免震の建物にすれば地震が来ても揺れを吸収させることができて被害を抑えられるとかね。

それ自体は素晴らしいことなんだよ。ここに記したことすべて、どれも素晴らしいこと。

テクノロジーのお陰で、伝染病を防げるのも、自然災害による被害を防げるのも、交通事故を防げるのも、飢饉対策ができるのも、医療の発展で健康な人が増えるのも、どれも素晴らしいことだよ。

だけど、それをそのままただ手放しに喜んで、自分たちの望み通りになるからと言って本当に望むことをそのまま叶えるためだけにその技術を皆が使いたいように使ったら、当たり前だけど大変なことになるよね。人口増え過ぎるよ。そんなことになったら、自分たちの望み通りになって幸せになるどころか、自分たちが持たなくなるよ。そういう科学技術を使うのは良いけれど、そうするなら生まれてくる人類の数を制御しないとだめだよね。「今まで通り新しい人類を誕生させる、かつ今まで以上に生き残れるようになる科学技術は使う」っていうんじゃ、どんどん増えて破綻するよね。

昔、恐竜が絶滅したでしょ?それは、隕石の衝突のせいもあるけど、それがなくたって、あんなに身体を巨大にしたら生き延びるために膨大な食料を必要とするから、そこら中の植物や動物を食べ尽くさないと生きられなくなって、どう考えたって長くは持たないよ。人間の場合は身体が巨大化することではなく、個体数が増えすぎたことで絶滅するという道を辿ることになるよ、このままだと。

ときどき、「人口が増えすぎたら、そのうち自然と飢饉や伝染病や戦争など何かしらで減るから大丈夫」とか言う人がいるけれど、それは20世紀までの話だから!ここまでテクノロジーが進んだら、もうそんなこと言ってられないの。

自然の摂理で何とかなるから大丈夫という時代は終わったの。それは人類全員が自覚していなきゃいけないことだと思うよ。

なぜなら、これまで人類を守ってくれていたその自然の摂理自体を、いま人類が書き換えようとしているのだから。ここ、すごく重要なポイントだと思うよ。

「人口が増えて地球にいられなくなったら他の惑星に移住すればいい」と考える人もいる。そして、「人間の身体は他の惑星の環境には適応できないのでは?」という問題については、「人間の身体自体をその惑星に適応させるように作り変えればいい」とか言う人もいるけど、そもそも地球が、太陽系のなかで生物が誕生し繁栄するに最も相応しい環境だったから、地球だけでこれだけ長く生物の歴史が続いたんでしょ。他はそもそも生物が存在するに好ましい条件ではないの。それなのに無理に住まわせて何が良いのだろうかと思う。その惑星の環境に適応できるように遺伝子を設計して身体を作り変えたって、そもそも「生物」である以上は、地球が最も住むに相応しい環境であることに違いはないでしょ。

だから他の惑星には生物ではなくて、ロボットがいるようにしたらいいと私は思う。今も探査機はいるわけだけれど。ロボットを様々な天体に住まわせればいいよね。それがいいよ。他の惑星に住むのは生物じゃなくていい。なんでそこまでして自分たちが生き延びなきゃいけないのか私は全く理解できない。

だいたい、生物じゃなくなるくらいに進化したら、もう「生き延びたい」という欲求さえ淘汰されて無くなると思うよ。生き延びたいとも思わなくなるよ。

そうなるのだから、今の人間の生物らしい感覚を基準にして、いつまでも何処までも自分たちを蔓延らせようとすることが滑稽だわ。そこまでしてなんで生き延びたいのだろう。なんで他の惑星に適応できるように身体を変えてまで進出したいの?それはロボットがやればいいことじゃない?それで、ロボットがその惑星から宇宙を探査すればいい。生物が及ばない範囲のことについては、ロボットに未来を託すということも必要だと思うよ。

人類がいつまでも自分たちの勢力を増大させ、太陽系を支配し、他の天体にまで人類の住まう範囲をどんどん拡張させていくという、「自分たちが勝ち誇る」とか「生き延びる」とかいう発想自体が、もうだいぶ古いと思う。今の科学技術がこのまま進めば、もう、そんなことはどうでも良くなるような境地に辿り着くと思うよ。そんな、自分たちの占める範囲を広げていくことに価値を感じるなんて、戦国時代の話じゃない?そんなのずっと昔の話だよね。

そんなんじゃもう、新しい科学技術の内容と人間の心がぜんぜん合ってないよ。技術だけは人間より先の状態に相応しくなっていて、人間の心はまだずっと前の段階にいる。このままそのズレが埋まらないようだったら、地球の歴史は人類の代で破綻してしまうよ。

技術が新しくなったら自分たちの思考も新しくならないと、自分たちの技術によって自滅することになるもの。


2018年1月 間アイ



次のエッセイへ    トップページへ


© 2017 Aida Ai  All Rights Reserved.