科学技術の使い方改革

これまで人間は、科学技術を人間のために使ってきたと思う。人間の幸せや便利さ、豊かさのために使ってきた。自分たちのために技術を開発してきたのだから当たり前だけれど。

でもそれをもう、地球全体のため、宇宙全体のために使うという方向へ転換しなければならない。人間の豊かさや便利さのためではなく、地球全体の調和のため、そして宇宙を知るために使うのだ。延いてはその宇宙のなかでどんな役割を果たせるのか考えるのだ。少なくとも人間が人間たち自身のためだけに科学技術を発展させるという時代は終わった。そんな時代はいつまでも続くものではない。だから今こそ、科学技術を使うことの意味を問い直さなければならない。自分たち自身のために科学技術を使おうとする志向を、自分たちを囲む全てのもののために使うという志向へ転換するべきだ。

なぜそうすべきかと言えば、理由は二つある。

一つは、今の科学技術が行き届いている人間の世界は、もう十分に豊かになったからだ。これ以上は幸せになる必要もないくらい、豊かで便利な社会を手に入れてきた。だからそれ以上を望む必要もないということ。そこから先は他のことに使ったほうが良いのではないかということ。

もう一つは、人間が人間のために発展させてきた科学技術が、人間の社会だけではなく他の生物たちや地球環境全体、はたまた自然そのものに影響を及ぼすレベルに達し、人間たちだけの話では済まされない段階に来ているからだ。人間だけではとても責任が取れないくらいの大きな影響を、地球全体に、そして自然の仕組みそれ自体に及ぼす可能性があるくらい、人間の科学技術は発展しているから。

だからそれを、人間を中心に考え人間のためだけに使ってしまったら、これまで地球の営みを成り立たせてきた仕組み自体を狂わせてしまうことになり兼ねない。そうなると人間も困ることになるわけだが、人間だけではなく他の生物も、地球の環境それ自体も、今以上にバランスを崩した状況に陥ることとなるだろう。遺伝子を操作して命それ自体を人間の意志で変えられるとか、気象を操作できるとか、その段階まで来たら生態系や地球環境自体、これまで地球が保ってきた自然の秩序自体を、人間が書き換えることができる状態になってしまう。そのような技術を手にした今の人間は、もう人間という範囲には到底収まり切らない、自分たちを遥かに超えた地球全体の仕組みに対して多大な責任を負っている。最初は自分たちの豊かさのため、自分たちの幸せのために科学技術を進歩させて問題なかったかもしれないが、もうここまで来たら、自分たちだけのことを考えていれば良いという段階をはるかに過ぎている。

だからと言って私は、科学技術がなかった昔の状態に戻れば良いと言いたいのではない。それは決して戻れないことだし、戻る必要もない。これからも科学技術はどんどん進歩するだろう。それは決して止められないし、進歩するのは必然的なことであって、それで良いだ。だけれど、それを使う「方向性を転換すべきだ」ということ。このまま人類が、人類自身の願いを叶えるために科学技術を使うことに何の疑問も持たない状態でいると、人類は自分たちの願いを叶えることよりも遥かに大きな自分たちの役割に気づかないまま、人類の段階で破綻してしまうのだろう。

人類はこの地球の長い歴史のなかで、自分たちを繁栄させることよりももっとずっと誇りある、大きな役割を担っていると思う。その役割が何かと言えば、自分たちから先へ続いていく存在を作るということ。それはこの宇宙にごく稀にしか存在しないであろう知的生命体だけに実現可能なことであり、知的生命体はその役割を担っているのだと思う。

これまで地球の生命は、自然に進化して人類という段階まで辿り着いた。だが、ここからは人類が人工的に、人類から繋がる未来の存在を作るのである。そこまで来たら、今度はその存在がまた人工的に、その次の段階を作るだろう。それはロボットかもしれないし何らかの生物かもしれないし、それは分からないが、いずれにしても自然には辿り着けない段階にまで地球の生物から先の歴史が作られることになるだろう。

だから地球では人類が最初に、人工的な進化を始めるきっかけを作るのである。これは大変に大きな出来事だ。人類から先の長い歴史を作るきっかけを与えるという大仕事が、人類に任されているということなのだから。だからそれに失敗してはいけないのだ。そのためにはいつまでも自分たちの願望を叶えるために科学技術を使うという発想を持ったままではいられないのだ。それでは人類の先の世界に辿り着けない可能性がとても大きくなる。

だから、ここで「何のために科学技術を使うのか」という、科学技術の目的を転換させなければならないと思う。少なくとも最先端の科学技術を使うことのできる環境にいる人類の一人一人が、もう人類のためだけに科学技術を使っても問題ない状況は過ぎているということを自覚する必要はあると思う。せっかくここまで人類が発展させてきた素晴らしい科学技術を、人類の段階だけで終わらせてしまうことのないように。人類から始まった科学技術が、人類から先の未来を含めた地球全体の歴史に貢献し、いずれは宇宙全体の未来へと繋がっていけるように。科学技術が何のためにあるのか、私たちは科学技術を使って今どこに向かっていくべきなのか、考える必要があるだろう。私たち地球の知的生命体は今、科学技術の大きな転換期に直面している。


2018年2月 間アイ



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