人間は、何のために存在したのか?

人間は、何のために存在したのでしょうか。

もちろん、人類に限らず全ての生命は、何のためでもなくただ自然の流れで偶然に誕生したわけですが、それぞれの生物たちはそれぞれに何かしらの役割を持ってこの地球上に生きていると思います。ならば、私たち人間は何のために地球上に誕生し、何のために今も地球上にいるのでしょうか。

地球が誕生してからこれまでの間に、気候変動などで生物の多くが絶滅してしまうということが5回ありました。そして今ちょうど、6回目の大量絶滅が進行している最中です。その原因は人類の営みにあると言われています。

私たち人類は発達した脳を手に入れ、科学技術を手に入れ、高度な文明を発展させてきました。それは同時に、地球環境を汚染したり、自然に還らないものを廃棄して他の生物の迷惑になったり、医療技術が発達することで多くの病気が治せるようになる反面、人口が増え過ぎたりといった、さまざまな問題を生み出してきました。人類の営みは人類の生活を便利にし、豊かにし、これまで大いに文明を成長させてきましたが、一方でその営みは地球全体のバランスを崩す原因ともなったのです。

そして、とうとう今、私たち人類のせいで多くの他の生物たちが絶滅に追いやられているというわけです。46億年という長い地球の歴史のなかでも、今まで5回しか起きていないような生物の大量絶滅に匹敵するほどの大量絶滅を、人間が人為的に引き起こしているということです。

「生物の大量絶滅は今までも何度もあったことだから大した事ではない」と思う人もいるかもしれません。ですが、今回は今までとは違います。今までは環境の変化や隕石の衝突などによって自然に起きた現象であって、今回は人類が「人為的に」引き起こしているものだからです。自然に偶然起きることならば避けられないため仕方ありませんが、人為的に起きていることならば避けようと思えば避けられるわけです。ですから、いま人類は、自らの意思によってこの生物の大量絶滅を進行させているということになります。

そんな状態になってまで、人類が今も地球上にいるのは何のためなのでしょうか。もう地球環境や他の生物たちからは、とうに必要とされていないはずです。むしろ、早くいなくなってもらいたいと思われていることでしょう。それでもまだ、この地球にいさせてもらうのならば、相当の理由がなければならないと思うのです。

人間に限らず、ある星のなかで生命が誕生し、それが進化して文明を持つ知的生命体にまでたどり着いたのなら、おそらく科学が生まれ、それを基に技術を発展させることになるでしょうから、それを用いて自分たちの思い通りにすることで、いずれはその星の環境や他の生物の迷惑になるようなことをするようになるでしょう。そうならない場合もあるのかもしれませんが、普通に考えれば、そうなることは容易に想像が付くと思います。少なくとも地球はそういう状態に至りました。

これだけ他の生命体や環境全体に迷惑をかけるような知的生命体がこの宇宙に存在するのは、何のためなのでしょうか。

それは、知的生命体の、その先があるからなのではないでしょうか。その未来を作るために、知的生命体が必要だからなのではないでしょうか。そうだとすれば、この宇宙にそんな迷惑な知的生命体が誕生するとしても説明が付きます。

人類が今もいるのは、人類の先を作らなければならないから。そう私は思います。人類の先に、何かこの地球にとって、もしくはこの宇宙にとって必要な展開が待っているから、その未来を切り開く為にいるのではないでしょうか。

このまま地球で初めての人為的な生物の大量絶滅を押し進め、他の生物たちを大量に絶滅させた上、何も残さずにただ自滅するわけにはいきませんから。せめて、人間にしか残せない未来への遺産として、人間がいなくなった後も太陽系の営みに関与し続ける何らかの新しい存在を残してから、滅亡しなくてはならないと思います。それが、この宇宙でごく稀にしか誕生しないであろう知的生命体の、せめてもの責任なのではないかと思うからです。

そうでないと、何のために他の生物と地球環境を犠牲にしたのか分かりません。単に、自分たちの営みのせいで他の生物たちを大量に絶滅に追いやって、自分たちも自分たちの引き起こした環境の変動に付いていけなくなり滅亡するだけならば、もう現段階ですぐに人類は自ら滅亡してしまったほうが良いということになります。そういう状況に至っても尚、この地球上に居続けるのなら、何か次に繋がるものを残さなければ意味がないと思います。

「べつにそこまで責任を感じる必要はない。だって、私たちが失敗しても私たちが絶滅した後の生命体がまた知的生命体に至り、その次につながるかもしれないのだから」と思う人もいるかもしれません。でも、そうとは言えないのです。なぜなら地球には寿命があるからです。それゆえ、もう一度やり直すほどの時間は残っていないのです。

地球の寿命は明確には分かりませんが、あと17億5千万年ほどとも言われています。いま確認されている範囲で、地球に最初の生命が誕生してから私たちに至るまで、39億年ほどかかっています。もう一度最初からやり直した場合は、知的生命体に至るまで間に合いません。

とはいえ「今まで生物の大量絶滅があっても最初からやり直しになったわけじゃないんだから今回も大丈夫なのでは」と思う人もいるかもしれません。でも、今回は「人為的な」大量絶滅が起きているわけで、今までとは訳が違います。もしも私たちが大規模な核戦争でもした場合、あるいは自然界にはない人工的に作った化学物質を大量に使った戦争をした場合、そのせいで環境が著しく汚染され、私たちや他の生物もほとんどが絶滅することが考えられますが、そうなった場合には地球全体が相当の放射線で覆われることになったり、自然に分解されないもので溢れたりして、地球は今まで経験した事のない状況に陥ることとなるでしょう。そうなれば、かなり原始的な微生物にも影響が出ておかしくないと思います。

そうなると、地球環境が元の状態に戻るまでに相当な時間がかかるでしょう。それでもいずれ地球は元の状態に戻るでしょうけれど、そうなってからまた原始的な生物が誕生し生命の歴史が少しずつ進んだのでは、もう地球の寿命が来るまでに私たちのような高度な文明を持つ知的生命体にまで至るのは難しいのではないでしょうか。それに、そこまで原始的な状態には戻らなくとも、一度リセットされてしまうと、そこからまたどのような生命が現れ、どのような偶然によってどのような生物の歴史が育まれて行くのか分かりませんので、たとえ時間が残されていたとしても確実に知的生命体にまで辿り着けるという保証はありません。

「地球がダメになっても、そうなる前に人間は巨大な宇宙ステーションや火星に移住するだろうから、そこにいれば人類は続くはずで、そこから人類の次に繋げればいい」と思う人もいるでしょう。でも、太陽系のなかで生命が長く居続けるのに最も相応しい場所が地球だったから、地球だけでこれほどまでに生命が繁栄できたのです。他に移動して長く続くとは思えません。それ以前に、地球の環境が致命的なダメージを受けるまでに、火星や宇宙ステーションの環境を整える準備が間に合うのかどうかも分かりません。

だから、ここで失敗してしまってはいけないのです。自分たちのせいで地球の生物を大量に絶滅させている最中にいる今こそ、私たち人間は、何のために今の地球上にいることを許されているのか、考える必要があるでしょう。


2018年9月 間アイ



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