ウイルスに敬意を
※この文章は、他のトピック「蚊がいる意味」と関連しておりますので、そちらもぜひご覧いただければと思います。
私は以前からウイルスのファンなので、今年コロナウイルスのことで世の中でたくさんウイルスが話題になっていることをとても嬉しく思っていた。もちろん、状況は深刻で、自分も感染したくないし他の人にも感染してほしくない、とても恐ろしいことだと思っている。ただ、ウイルスのことが広く一般的な話題になっているのは、ウイルスについて多くの人が知識を得るきっかけにもなるし、自分も情報を得る機会が増えるし、ウイルスについての研究も増えるから、それは嬉しく思っているということ。
ただ、自分のウイルスに対する認識と、メディアや世の中で言われているウイルスの認識がとてもズレていることが多く、違和感を持つことが多い。世の中ではよく「ウイルスに勝つ」とか「ウイルスに負けるな!」というような、ウイルスに勝とうとする姿勢が多く見られる。あるいは過去に人類が完全勝利した例として天然痘が引き合いに出され、「人類は過去に伝染病を根絶させることができたのだ!」というような、人類は伝染病を根絶させるだけの力を持っているという、人類の自然を制御する力を誇示するような話題も見かける。
でも私が思う、コロナウイルス禍で最も認識しなくてはならないことは、そういうことではない。私たちが今回のコロナウイルスから学ばなくてはならないことは、「ウイルスに敬意を持つ」ということだと思う。ウイルスに打ち勝つ術を探ることよりも、経済活動を維持することよりも、一番大切なのはウイルスに敬意を持つことだと思う。その敬意があった上でなければ、長い目で見た場合、経済活動もウイルスとの戦いも成り立たないと思う。
そして、これを機にウイルスだけでなく、私たちの命を脅かす可能性のある、あらゆる病原菌やそれを媒介する蚊やダニなど他の生物たちに敬意を持つということがまず必要だと思う。
敬意を持つというのは、それらに畏れの念を持つということでもある。畏れは、自分たちの制御できる範囲を超えている存在に体して抱くもの。ウイルスたちは簡単に自分たちの都合の良いようにコントロールすることはできない、私たちより上の立場にある存在だということ。まずその認識を持つべきだろう。その認識があった上で、ウイルスとの戦いやウイルスとの共存は成り立つはずだ。ウイルスのほうが私たちの支配下になると思い込んで戦いに勝ったつもりになったら、もしくは勝てると思い込んでいたら、恐らくそのうち私たち人間のほうが持たなくなるだろう。
ウイルスは私たちを殺すことができる。私たちにとって何の害もないウイルスもいるけれど、今回のコロナウイルスのように、私たちを衰弱させたり殺したりできるウイルスもいる。でも私たちはウイルスを根絶させることはできないし、そんなことはしてはいけない。ウイルスは、私たちが気づかないことにも気付いている可能性があるから。ウイルスは、私たちが気づかない間に壊した生態系を修復させる働きをしている面もあると思う。私たちが他の生物に比べてあまりにも増えすぎているのなら、生態系のバランスを取り戻すために減らしてくれる働きをしてくれると思う。だから私たちにとって不都合なウイルスも、地球全体にとって、あるいは他の生物も含めた生態系全体にとっては、必要なのだ。
私たち人間の多くは人間の生存と人間の繁栄のことを最優先に考えるけれど、それでは人間ばかりが増えたり人間の都合で環境や他の生物の営みが狂わされ、全体のバランスが保たれない。ウイルスのほうがよほど、全体を健全に保つために貢献しているのだから、地球全体にとっては私たちよりもずっとウイルスのほうが必要とされているのだ。
(これから先、もし私たちにとって不都合な特定のウイルスを根絶させることができる可能性が見えて、本当に根絶させるのだとしたら、そうすること自体はいいけれど、それならそのウイルスのせいで減ったはずの人間の数が増えないように自分たち自身で自分たちの数を厳重に管理しなくてはならない。つまり、そのウイルスが担ってくれた働きを、自分たち自身でやらやくてはならないということ。自分たちが生存できる医療技術を持つということ自体は人間の素晴らしいところだと思うけれど、それをやるのならばそのせいで環境や他の生物に悪影響が出ないよう自分たちで注意しなくてはならない。天然痘のときは、まだ今ほど人間の数が多くなかったから良かったかもしれないけれど、これから先、もし私たちを殺せるウイルスのなかで人間にしか感染しないウイルスなどで根絶できそうなものが登場した場合、それを根絶させるとか絶対に感染しないようにできるとしたら、何も医療技術がなく野放しになっていた場合に死んでいたはずの人間の数分、増えないように自分たち自身で全体のバランスを考え、自分たちの数を制御する術と、人間だけでなく生態系全体を視野に入れて自分たちを管理する意識を持たなくてはならない。)
あるいはウイルスは、私たちの役に立っている面もある。私たちが生き延びるために必要な存在でもある。例えば私たちの生殖が成り立ち、ここまで人間の子孫が残ってきたのもウイルスがいてくれたおかげ。それにウイルスに感染することで抗体ができて再びそのウイルスが入ってきても大丈夫な状態になれるのだから、ウイルスが私たちを強くしてくれているということでもある。
まとめると、一つ目に、ウイルスはある意味で私たちが制御できる範囲を上回る範囲に及ぶ制御をすることのできる存在で、全体のバランスを維持させることに貢献している。だから自分たち人間のことばかり優先させて他の生物や環境を狂わせてきた私たち人間より遥かに偉大で、尊敬に値する存在だということ。二つ目に、ウイルスのおかげで私たちも助かっているということ。私たち自身の生存にとってもウイルスは必要な存在だということ。
それをまず自覚して、ウイルスに敬意を持った上で、でも自分も一つの生物として生きる権利はあるのだから自分も死なないようにウイルスに警戒するとか、ウイルスがいても生活を維持できるように工夫するとか、そういう話が成り立つと思う。
2020年10月 間アイ
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